第6章
 
 
キーボードの人間工学的改善
 
 
 
 
6−1 人間工学的に優れたキーボードであることの条件
 
 本著の第2章から第5章までに述べてきた入力方式に関する各種の改善は、日本語を入力することを対象としたものである。
 これに対比して、この章で解説する「キーボードの人間工学的改善」は、万国共通のマン・マシン インターフェースに関するものであり、パソコンなどの開発・生産・販売のグローバル化が進行する時代にあって、重要な意義を持つものと考えられる。
 キーボードの人間工学的改善は、昔から欧米各国でいろいろな試みが提案されてきた。
 その中には、人間工学的には大変面白いものも有ったが、商品として考えた場合に製造原価の点で実用化困難なものも含まれていた。
 商品としてはNECにおいて1983年に M式日本語ワープロ用として人間工学的改善を施したキーボードを実用化し発売して以来、M式日本語ワープロ及び M式パソコン用として、連綿として各種の人間工学的キーボードが開発・実用化されてきた。
 これらは、商品化された人間工学的キーボードとして、おそらく世界最初のものであろう。
 最近になり、米国でもマイクロソフト社のナチュラルキーボード、KINESIS社のCONTOUREDキーボード、BTC社の分割型キーボードなどの商品が発売されるようになった。
 しかし、いずれも現在のところ、まだ一般に普及するに至っていない。  そもそも、「人間工学的改善の条件は何か?」、「具体的な施策は何か?」と言うことも、必ずしも明らかにされてはいない。 
 そこで、本章ではこれらの点について、実用化を前提として、逐次解説したい。
 人間工学的に優れたキーボードであることの条件は;
  @操作が快適であること。
  A長時間操作を続けても疲労が少ないこと。
  B腱鞘炎などの職業病を招かないこと。 
 などが挙げられる。
 従来のキーボードの日本文を入力対象にした文字キー配列についての欠点はすでに第1章で解説した。本章では、文字キー配列ではなくて、キーボード全体の人間工学的観点からの欠点について検討を加えたい。
 従来の伝統的キーボードの形状・キーは位置は、全て昔の機械的タイプライターの機械設計上の制約により決定されたものであり、キーボードで電気的に入力される現時点では全くナンセンスであり不合理なものであることは前(1−2)に述べた通りだが、これを具体的に分析して明らかにし、これぞれの問題点に就き改善方策を記述したい。
 
 
 
6−2 キーボードを右手と左手とに分離する
 
問題点の第1点は 文字キーが左右に分離されていないことである。
 従来のキーボードは昔の機械的タイプライターのキー配置の名残で下図のように左右一体となって配置されているので、左手が打鍵を担当するキーと右手が打鍵を担当するキーとの境界線が明確でない。
 人間の両手は左右二本であって,百足(むかで)のように連続的に多数の手が生えているわけではない。従って、少なくも文字、数字、記号など使用頻度の高いデータキーは 左手用と右手用と左右に明確に分離して配置すべきである。
 人間工学的改善を意図する場合には,この点についての伝統を墨守する必要はない。
 そこで、改善の第1点「データキーを左右に明確に分離する」ことであり、具体的には、下図のように、左手で入力するデータキー群と、右手で入力するデータキー群とを明確に分離して設置することである。
 
 此の措置により、左右二組のデータキー群のそれぞれの内側に機能キー群を配置する事が可能となり、これにより、データ打鍵操作途中に、それらの機能キーに容易にアクセス可能となることである。
 
 
 
6−3 碁盤目のキー配置
 
 従来のキーボードの問題点の第2点は上段・中段・下段が左右にずれており、そのため各指が打鍵を担当キーが不明確なことである。
 この上段・中段・下段間の左右のずれは昔の機械的タイプライターで連続打鍵の際に、前後の活字が衝突しないための工夫であり、電気的な接触のオン・オフで入力を行う現在では全く無用の存在だが、キーボードの必須条件のように思われてきた。
 タイプライターに完熟した人が多かった米国では、ある時期には過渡的に必要だったかもしれないが、今日に至っては日本では勿論のこと、米国でも無用で有り、有害な伝統を墨守しているにすぎない。


  人間工学的改善を図るには、この伝統的配置に拘泥することなく、同一指が担当する上中下段のキーは一直線上にならべて、碁盤目状に配置すべきである。
 これにより、それぞれの指が打鍵を担当するキーが一見して明確となる。


 此のような碁盤目キー配置の特徴の一は、子音キーを「NUM」モードにして下図のようにテンキーとして転用する事により、従来データキーとは別途に右端に設置されていた、連続数値入力用のテンキーを、省略できることである。
 これにより、従来過多であったキーボード全体のキー数を減少させてキーボード全体をコンパクトにすることが出来るのみならず、操作中の手の移動距離を短縮し、疲労軽減に効果がある。




6−4 「ハ」の字型の鍵盤配置
 従来のキーボードの不合理な点の第3点は、全体のキー配置が左上から右下への斜めの線に沿って配置されているので、この線に沿って手を上下させるために、下図のようにに左手首に無理な曲がりを強制させる。

 これに対する改善策は 「左右のキー群を『ハ』字型に傾けること。」である。
 打鍵操作中に左右の手の手首に無理な曲げを強制しないように、手の自然な姿に合致するように、左右のキー群をそれぞれ上方を内側に、下方を外側に、「ハ」の字型に傾ける。
 
 
6−5 記号キーを左右に対称形に配置する。
 
 従来のキーボードの不合理の第4点は、多くの記号キーが右手側に配置されており、キー配置が左右非対称であることである。
 これに対する対策としては、まず「記号キーを左右の文字キー群の内側に、左右対称に配置すること」である。
 即ち、次図のように、左右の4段5列の文字キー群の内側に、それぞれ1列の記号キー群を配置する。
 
それと共に、「数字キーの親指シフトで記号を入力」する事である。 
 従来のキーボードでは、数字キーをシフトして記号キーとして使用しているが、機械的なタイプライターの時代の名残で、一つのキーは1個の記号だけしか受け持てなかった。
 しかし、今日では、電気的にシフトでは多重的に適用できるので、従来のシフトによる記号の他に、「親指シフト」キーにより別の記号を入力出来るので、1個の数字キーで2個の記号の入力を担当させることが可能である。
 これらの措置により、記号専用キーの数を減少させ、右手小指の過大な負担を解消するとともに、左右対称性を保つことができる。
 
 
 
6−6 横幅をコンパクトにしたキーボード
 
 従来のキーボードの問題点の第5点は、キーボード全体のキー数が過多で、キーボード全体が大きすぎることである。
 全体が大きすぎる結果として、机の上の場所をとる欠点と、データ入力からカーソル操作、テンキー操作に移る際に手の移動距離が大きく、長時間の連続作業の際の疲労の原因となっていた。
 
 
 これに対する対策としては、すでに述べたように、「テンキーを右手子音キーで実現」する事と、Cで述べた記号専用キーを減らしたことで、全体のキー数を大幅に減少させである。
 
 
 
6−7 パームレストを付ける。
 
 従来のキーボードの欠点の第6点は左右の手の掌を休めるパームレストがないことである。
 この点についての対策は、左右のパームレストを十分広く設けることである。
 
 
 
 
 
6−8 親指キーを円弧状に並べる。
 
 従来のキーボードの問題点の第7点は、親指キーが横一直線に並んで配置されているので、手の移動が多くなることである。
 この点については、親指キーの配置を、親指キーの付け根を中心とした円弧上に配置することで解決される。
 
6−9 カーソルキーを中央下部に配置
 
 従来のキーボードの問題点の第8は、カーソルキーが文字キーと離れた場所に配置されていることである。 そのため、文章入力中にカーソル操作を必要とするとき、右手の移動が大きく、疲労の原因となる。
 
 カーソルの配置位置をどこが最適であるか?は難しい問題だが、データキーを左右に分離したキー配置を採用した場合には、「左右に分離したデータキー群の中間の空間にカーソルキーを配置する」と言うのが一つの考え方であろう。
 
 以上、@〜G に従来の伝統的なキーボードの形状とキー配置について、人間工学的見地からの問題点・欠点と、これと対比して、従来の伝統に拘泥されずに、人間工学的に理想的なキーボードのあり方について追求した場合の、項目別の考察を記述した。
 商品としての実際のキーボードは、上記の各項目を包含した設計であり、具体的には第8章に解説する。
 

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