第5章
 
 
漢字かな識別入力方式
 
 
 
 
 
 
 
 
5−1 M式では漢字と仮名を識別して入力
 
 4−9で述べたように、 M式キーボードでは左手中段キーが仮名文字入力専用となっている。此の中段アンシフト以外の左手キー、すなわち、アンシフトの上段及び下段キーならびにシフトの上・中・下段キーは全て漢字用である。
 2−1で記述したように、日本語の発音は子音の後に母音が必ず付随するので、子音キーは漢字用も仮名用も共通にして、母音キーだけを区別すれば、漢字と仮名を打ち分けられる。(これは大変幸いなことであり、もしも日本語の発音に英語のように子音だけの発音が存在すれば、漢字と仮名を区別するには、子音キーも漢字用と仮名用との双方が必要となり、キー数が過多となり、実用上漢字仮名を区別するキーボードの実現が困難となる。)
 すなわち、左手中段の「o、a、i、u、e」の5個のキーの追加だけで漢字と仮名の識別ができるのは、日本語発音の独特の特性のお陰である。
 しかも、此の5個のキーを追加することは、 M式キーボードによって初めて可能となったのだ。従来は元来英文字入力用に制定されたQWERTYキーボードを使用していたので、「C、Q、L、X、」など、日本語入力に不要なキーがバラバラに散在して含まれいた。
 M式キーボードでは、此の日本語入力に不要な5個のキー「CFJLQ」を1カ所に纏めて、5個の母音キー「OAIUE」と隣接して配置したので、これらを平仮名専用の母音キー「oaiue」として使用できるようになったのである。
(実際にはCFJLQを漢字単母音用に割り当て、中段を平仮名専用に割り当て、上段と中段とを入れ替えて使用しているが)
 このように、漢字と仮名とを識別して入力することの意義はこれから説明する。
 
 
 
5−2 漢字か仮名かの誤変換がない
    (漢字識別入力方式の特長 その1)
 
 例えば、従来の仮名漢字変換方式では「仕事の周辺」を入力しようとすると、「私語」、「死語」、「死後」が先に出現し、「仕事」は数回変換しないと得られない。そして一度「仕事」を選択すると、それを学習するので、その次に「私語と」入力したくても「仕事」になってしまう。
  M式ならば、「仕事」は「SIGOT」、「私語と」は「SIGOT」と、「と」の母音で漢字・仮名が識別されているので上記のような事態は発生せず、一発で「仕事の」が得られる。 
 同様に、 「両者迫真の演技で」←→ 「両者は苦心の演技で」                
      「仕事に邁進」   ←→ 「市ごとに邁進」
 
      「あれとこれと区別」←→  「あれとこれ特別」
 
      「山の近くに」   ←→ 「山の地殻に」
 
 など、従来の仮名漢字変換方式では誤変換を発生する語句でも、漢字仮名識別方式では誤変換を発生しない。
 
 
 
5−3 入力後すぐに自動的に漢字が表示される
    (漢字識別入力方式の特長 その2)
 
 漢字の後に仮名が続いた一連の文字列を文節と呼ぶが、従来の仮名漢字変換方式では文節ごとに変換し、確定する方式が一般的である。
 これに対比して、 M式では文章を連続的に入力することにより、自動的に漢字変換が行われ、漢字仮名交じり文が表示されるので、文節ごとに変換・確定する手間・暇が省けて大変楽である。
 
 もちろん、仮名漢字変換方式でも自動変換モードは存在するが、下記の理由で実用的でないので、実際にはあまり使用されていない。
 すなわち、従来の仮名漢字変換方式では、長い文章の場合にはまず文節区切りを発見することが必要である。 そこで、「てにおは」などの助詞になりうる発音を手がかりに、いろいろな文節区切りの可能性を試みて、文節数最小法・最大文節法など、文法処理技術の粋を尽くして、入力した操作者が入力を企図した文節組み合わせを推定する。
 その推定作業結果に確信が持てるようにするのには少なくも3文節程度は必要である。その結果、仮名漢字変換方式における自動変換モードでは、3文節程度仮名文字列を表示した後にはじめて漢字が表示される。実際にはそのような長い仮名文字列は分かり難いので、此の自動変換方式はあまり使用されていないのである。
 
 これを次の例文で例示する。従来の仮名漢字変換方式の自動変換モードでは、
「規制緩和の促進はわが国の経済構造を抜本的に改革し、」という文章の入力に際し、
 
 きせいかんわのそくしんはわがくにの
 規制緩和のそくしんはわがくにのけいざいこうぞうを
 規制緩和の促進はわがくにのけいざいこうぞうをばつぽんてきに
 規制緩和の促進はわが国のけいざいこうぞうをばつぽんてきにかいかくし、
 
と言うように、仮名文字列が長く続くので、実際にはあまり使用されていない。
これに対比して M式では、
 
キセイカンワの
規制緩和のソク
規制緩和の促進はわがク
規制緩和の促進はわが国のケイ
規制緩和の促進はわが国の経済構造をバツ
規制緩和の促進はわが国の経済構造を抜本的にカイ
規制緩和の促進はわが国の経済構造を抜本的に改革し、
 
と、入力後、まもなく漢字仮名交じり文章が自動的に表示される。
此の自動漢字表示の快感は M式ユーザ全員が体験している事実である。
 
 
 
5−4 筆者の自主性確立
    (漢字識別入力方式の特長 その3)
 
 漢字に対する送り仮名についていろいろの例外や規則があり大変複雑だが、文部省の考え方が時代とともに揺れた経緯もあり、必ずしも絶対的なものでなく、複数の考え方が許されている場合がある。 
 また、下記に列記するように、和語やあて字などで、漢字で表記してもよく、仮名で表記しても差し支えない言葉も多数存在する。しかし、漢字か仮名かで言葉のニュアンスが微妙に異なる。
 このような場合に、筆者が自分がその場面で書きたいと思う字を自由に選べることを「筆者の自主性」と呼ばれ、識者から強く要望されているが、従来の仮名漢字変換方式ではその要望に応えられなかつた。。
 従来の方式でも、変換操作を重ねることにより最終的に目的の字を選ぶことはできたが、ここで「自主性」というのは最初から希望する字が得られることである。
 もちろん、学習機能があるので、次回からは最初から希望の字が得られる場合が多いが、 それでも同一人でも時と場合により、使い分けることがある。例えば手紙で公用では相手にたいする敬称として「殿」を使用する人でも、孫に対する手紙では「どの」と書く人もいる。
 また、論文などで文字数が厳格に制限されている状況で発表すべき内容を記述するために漢字を意識的に多用する場合もある。
 そのような漢字か仮名かについての筆者の要望をM式は完全に満たすのである。この点も M式の特長の一である。
 次に漢字と仮名と双方が許容される事例を示す。
 
「あるいは」「或いは」、「あたたか」「暖か」、「あたりまえ」「当たり前」、「あす」「明日」、「あずき」「小豆」、「えがお」「笑顔」、「あと」「後」、「いま」「今」、「いう」「言う」、「いたします」「致します」、「いなか」「田舎」、「おじさん」「叔父さん」、「かぎり」「限り」、「かならず」「必ず」、「かぜ」「風邪」、「ごぶさた」「ご無沙汰」「御無沙汰」、「さま」「様」、「すなわち」「即ち」、「すくない」「少ない」、「すもう」「相撲」、「しはす」「師走」、「しろうと」「素人」、「とくに」「特に」、「とけい」「時計」、「はがき」「葉書」、「ふぶき」「吹雪」、「みやげ」「土産」、「むかし」「昔」、「もみじ」「紅葉」、「めがね」「眼鏡」、「もめん」「木綿」、「やまと」「大和」、「ゆくえ」「行方」、「わがくに」「わが国」「我が国」、
 
などなど、数え上げたら際限がない。これらの場合に、筆者の自主性を確保することは大変重要な条件である。          
 
 
 
5−5 漢字の文字数も識別可能
 
 漢語に関する限り、1文字1韻母の原則があり、例外はない。したがって、入力時点
で漢字か仮名かを指定するだけでなく、漢字の文字数も指定できる。例えば、
 
「諾」……漢字1文字・漢字韻母数1……………………………………D Ak
「駄句」…漢字2文字・漢字韻母数2……………………………………DAKU
「抱く」…漢字1文字・漢字韻母数1、仮名1文字・仮名韻母数1…DAKu
「だく」…仮名2文字・仮名韻母数2……………………………………DaKu
 
の四者を右端のように打鍵することにより、打鍵時点で指定することができる。
(従って入力後に何度も変換操作を行う煩わしさがない)
 
 ただし、和語である訓読み漢字は文字数と韻母数との関係が規則的でないので、上記のような指定はできない。下記のように漢字1文字に対して韻母数が1の場合もあり2の場合(時には3,4)もあるからである。
 例えば、
「歯」「は」(和語)…………漢字1文字・韻母数1……………………HA
「目」「め」(和語)…………漢字1文字・韻母数1……………………ME
「耳」「みみ」(和語)………漢字1文字・韻母数2……………………MIMI
「鼻」「はな」(和語)………漢字1文字・韻母数2……………………HANA
 
これに対比して、漢語の場合には文字数と韻母数は必ず一致する。                
「歯」「し」(漢語)…………漢字1文字・韻母数1……………………SI
「目」「もく」(漢語)………漢字1文字・韻母数1……………………MOk
「耳」「じ」(漢語)…………漢字1文字・韻母数1……………………ZI
「鼻」「び」(漢語)…………漢字1文字・韻母数1……………………BI
 
 
 
 
5−6 仮名漢字変換方式と漢字識別入力方式の比較
 
 従来の英文字入力用のQWERTYキーボードを使用するときには、仮名漢字変換方式が唯一の変換方式であり、他に選択の余地がなかった。
 しかし、 M式キーボードの場合には、従来の仮名漢字変換方式の他に、漢字仮名識別入力方式も実現可能なので、以下、両方式の比較を試みたい。
 
 先ず、仮名漢字変換方式の利点をあげれば、
 
@ 漢字の送りがなを正確に覚えなくても良いこと。
A 母音の種類は「AIUEO」の五個だけだから、気楽に打鍵できること。
 とくにM式キーボードの場合には、母音キーは左手中段に集中して配置されているので、左手指は上下に移動させずに、ホームポジションに置いたまま打鍵できること。
 
 これに対比して、漢字仮名識別入力方式の特長は前に述べたように、
 
@ 漢字か仮名かの誤変換が絶対にないこと。
A 一々文節ごとの仮決定をしなくても、入力後まもなく自動漢字変換が行われ、自動的に 漢字仮名交じり文が表示されること。
B 漢字か仮名かに関する「筆者の自主性」が確保されること。
C 漢語に対しては漢字の文字数も指定できること。
 
  と言う特長がある。
 
 そこで、仮名漢字変換方式と漢字仮名識別入力方式とを比較して、概括的に言えば、
   漢字仮名変換方式は……………………初心者向き
   漢字識別入力方式は……………………熟練者向き
と言えよう。
 しかし、従来は日本語ワープロやパソコンの普及の初期段階だったので、初心者が多数を占めていたが、これからパソコンの普及が進めば熟練者の比率が高まり、漢字識別入力方式の適応者が増加することが期待される。
 そもそも、よく考えてみると、人間が手書きで文章を執筆する時には、漢字か仮名か、漢字一文字か二文字かは十分意識して書くのであり、成り行きに任しているわけではない。
 送りがなを意識することは煩わしいという声もあるが、これも少し慣れればなにら問題ないことである。
 仮名漢字変換方式で文法処理を如何に精密に実行しても、限界があり、100%本人の希望通りの語句が一発で表示されることは到底あり得ない。それに対比し、漢字識別入力方式では、漢字であるか仮名であるかに関しては、当然のことながら100%正解が得られるのである。
 目の前に漢字と仮名を区別できるキーボードがありながら、その機能を活かさずに入力し、複雑な文法処理機能に依存して漢字か仮名かを判別し、その結果、誤変換もあり得ると言うことは、過渡的な措置としてはやむを得ないが、日本語の入力方式として完成したものと言えるだろうか?
 昔、「電報」・「電信」と言うものがあり、「カタカナ」しか送信できなかった。
「カネオクレタノム」と送信したら「タレガクレタカノムナ」と返事が来たという笑い話があるが、伝送回線の情報量が限定されていた昔の遠距離通信ならともかく、目の前のキーボードと人間の間の意思の伝達を故意に不十分にする必要はないのではなかろうか?
 
 将棋の勝負で「遊び駒」が多い方が負けると言われているが、 M式キーボードで仮名漢字変換方式を採用すれば、左手上段の5個のキーが「遊び駒」となる。 
 その意味で、左手上段の5個のキーを活用し,キーボードの特性を完全に生かした漢字識別入力方式こそ究極の日本語入力方式ではないかと著者は思う。
 
 なお、 M式の主たる特長は複合キーにより漢字の省打鍵を行うことにあるので、仮名漢字変換方式でも省打鍵を実現しているものはやはりM式である。即ち、M式には仮名漢字変換方式と漢字識別方式の2種類が存在することになる。
 日本語ワープロ専用機である M式文豪シリーズは一貫して漢字仮名識別入力方式を採用してきたが、パソコンPC−9800用楽々キーボードでは漢字仮名識別入力方式と仮名漢字変換方式のいずれかをユーザが任意に選択可能な方式となっている。
 しかし、最新型のエルゴフィットキーボードでは、今のところ仮名漢字変換方式のソフトだけが利用できる。

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