第3章
 
覚え易さと合理性の両立したキー配置
 
 
 
 
3−1 子音キー数は14個、母音キー数は5個 
 
 前章2−2において、子音キーを纏めて右側に配置し、母音キーを纏めて左側に配置すれば、日本文の入力に際して左右交互打鍵が成立することを説明した。
 これを実現するには、子音キーを右手側に全部収容する必要があるが、ブラインドタッチを考えた場合のキー数は、片手三段五列の15個が限度であるとされている。
 ところが幸いなことに、日本語の入力に必要なアルファベットのキー数は、日本式ローマ字では、子音キー数は14個(K、S、T、N、H、M、Y、R、W、P、G、Z、D、B)で丁度15個以内に収まっている。
 また母音キー数は5個(A、I、U、E、O)で片手の一段(中段)だけで収まっている。
 この点についても日本語はキーボード入力に都合の良い言語であると思われる。
 
 
 
3−2 覚え易いキー配置
 優れたキーボードであるための最重要な条件は「キー配置が覚え易いこと」である。
 日本人にとって最も覚え易い配置は「50音表順」である。
 3−1に述べたように、右手側に子音キーを収容するからには、先ず、下図のように、
右手中段に左から、50音表の   「か」「さ」「た」「な」「は」に対応して、
         対応子音キー  「K」「S」「T」「N」「H」と配置する。
続いて
右手上段に左から、50音表の   「ま」「や」「ら」「わ」に対応して、
         対応子音キー  「M」「Y」「R」「W」と並べる。
右手下段には中段の清音に対応する濁音「が」「ざ」「だ」 「ば」に対応する
                  「G」「D」「D」 「B」を配置する
右手上段の右端は中段の「H」に対応する半濁音「P」を配置すれば、右手右端は「H」に対する半濁音が上段、濁音が下段、と「ぱ」「は」「ば」が縦一列に並ぶので覚え易い。
 「N」は対応する濁音がないので、下段の対応個所は句読点キーとする。
 
 このキー配置は、50音表順の「かさたなは、まやらわ」に対応する「KSTNH、MYRW」の順であること、および中段の清音キーに対応する濁音キーが下段に、半濁音キーが上段に配置されているので、大変覚え易い。
 母音キーは左手側に、中央側(左)から右へと「あ」「い」「う」「え」「お」の順で「A」「I」「U」「E」「O」と配置したいが、その場合には打鍵数の多い「O」が小指の分担となり不都合なので、「O」を人差指の分担となるように下図のように「O」「A」「I」「U」「E」としたが、これでも覚え易い。



3−3 覚え易いキー配置が、同時に合理的なキー配置
 
 前節に記述した「覚え易いこと」を第一優先に考えた右手側子音キーの配置は、日本語における出現頻度に由来する指の負荷負担の観点から見て如何だろうか?
 3−4以降に詳述するが、実はこのキー配置は指の負荷負担の観点からも、日本語の入力に対して極めて合理的なのである。
 すなわち、日本文の入力に際して、このキー配置の場合に、
 
@ 中段の使用率、すなわち指のホームポジションの使用比率が上段、下段に比較して断然高いこと。
A 各指の負荷負担率(使用頻度)は人差指、中指、薬指、小指の順となり、
  人差指の負荷負担が最も大きく、小指の負荷負担が最も小さく、各指の負荷負担能力に適合すること。
 
 このように、「覚え易いこと」を主眼に選定したキー配置が、「指の負荷負担」の観点からも合理的であることは誠に好都合であるが、これは偶然の幸運だと考えるよりは、元来50音表が日本語の使用頻度を考えて作られたものであると考えるのが妥当ではないかと私は考える。
 50音表は鎌倉時代に出来たという説もあるが、一説には弘法大師の作とも伝えられる。 弘法大師は若い頃、僧空海として唐の都、西安に留学していたので、仏教の原典とともにサンスクリットを勉強し、その影響を受け、帰国後日本語に適合した50音表を創案したのではないかと著者は想像している。(この点は確たる根拠はないが)
 いずれにせよ、ローマ字と50音表とは不可分の関係にあるが、50音表の「K、S、T、N、H、M、Y、R、Wと言う順番は、ほぼ日本語の出現頻度順であることは大変興味ある事実である。
 以下、この点についての従来未発表の私の解析結果を発表する。
 
3−4 出現頻度計算基礎データ
 
出典:「国語の文章における仮名の使用状況について」
    渡辺 定久(電子技術総合研究所) 中野 洋(国立国語研究所)
    情報処理学会「日本文入力方式研究会第12会資料」(1983年11月)
 
出典資料における調査対象 :  
      調査対象文章 : 高校教科書 9科目 9冊
      原文の仮名表記部分に対応する仮名 :    451,051
      原文の漢字表記部分に対応する仮名 :   724,003
      対象仮名文字数合計 :        1,175,054
 
調査結果としての仮名文字出現頻度(相対値) :
 
 あ;139   い;651   う;626   え;071   お;100
 か;319   き;241   く;267   け;096   こ;225
 さ;118   し;419   す;121   せ;154   そ;100
 た;261   ち;125   つ;170   て;213   と;266
 な;171   に;263   ぬ;002   ね;033   の;393
 は;223   ひ;044   ふ;046   へ;026   ほ;050
 ま;070   み;061   む;027   め;069   も;101
 や;046           ゆ;022           よ;105
 ら;120   り;154   る;226   れ;124   ろ;041
 わ;053                           を;158
 ん;574
 が;189   ぎ;056   ぐ;016   げ;045   ご;034
 ざ;020   じ;149   ず;025   ぜ;019   ぞ;025
 だ;072   ぢ;000   づ;005   で;137   ど;098
 ば;039   び;017   ぶ;068   べ;016   ぼ;020
 ぱ;013   ぴ;003   ぷ;006   ぺ;003   ぽ;019
以下小文字   
 ぁ:001   ぃ;002   ぅ;000   ぇ;002   ぉ;009
 ゃ:031           ゅ;123           ょ;207
                 っ;162
 
 
 
3−5 ローマ字入力におけるアルファベット出現頻度(相対値)計算式
 
A; あ+か+さ+た+な+は+ま+や+ら+わ+が+ざ+だ+ば+ぱ
   +小文字あ+小文字や
 
I; い+き+し+ち+に+ひ+み+り+ぎ+じ+ぢ+び+ぴ+小文字い
 
U; う+く+す+つ+ぬ+ふ+む+ゆ+る+ぐ+ず+づ+ぶ+ぷ+小文字う
                              +小文字ゆ
 
E; え+け+せ+て+ね+へ+め+れ+げ+ぜ+で+べ+ぺ+小文字え
 
0; お+こ+そ+と+の+ほ+も+よ+ろ+を+ご+ぞ+ど+ぼ+ぽ
                              +小文字よ
 
K; か+き+く+け+こ+小文字っ×K÷(K+S+T+P)
 
S; さ+し+す+せ+そ+小文字っ×S÷(K+S+T+P)
 
T; た+ち+つ+て+と+小文字っ×T÷(K+S+T+P)
 
N; な+に+ぬ+ね+の+ん×2
 
H; は+ひ+ふ+へ+ほ
 
M; ま+み+む+め+も
 
Y; や+ゆ+よ+小文字や+小文字ゆ+小文字よ
 
R; ら+り+る+れ+ろ
 
W; わ+を
 
G; が+ぎ+ぐ+げ+ご
 
Z; ざ+じ+ず+ぜ+ぞ
 
D; だ+ぢ+づ+で+ど
 
B; ば+び+ぶ+べ+ぼ
 
P; ぱ+ぴ+ぷ+ぺ+ぽ+小文字っ×P÷(K+S+T+P)
 
[註1]通常のローマ字入力において、内音「ん」は”N”を続けて2回打鍵するので、その分を”N”の項に加算した。
[註2]促音「っ」をローマ字で表現する際には、次に続く子音”K”、”S”、”T”、”P”の何れかを2回打鍵するので、促音「っ」の出現回数をそれらの子音の出現頻度に比例配分して加算した。
 
 
 
3−6  ローマ字方式でのアルファベット出現頻度計算結果(相対値)
 
A  1885(11.3%)

I  2185(13.1%)

U  1750(10.5%)

E  1008(6.0%)

O  1942(11.6%)

K  1207(7.2%)

S   959(5.8%)

T  1089(6.5%)

N  1436(8.6%)

H   389(2.3%)

M   328(2.0%)

Y   534(3.2%)

R   665(4.0%)

W   211(1.3%)

G   340(2.0%)

Z   238(1.4%)

D   312(1.9%)

B   160(1.0%)

P    46(0.3%)
                
 
 
 
3−7 子音・母音分離型キー配置での各キーの打鍵頻度
 
 
 
3−8 QWERTY鍵盤配置での各キーの打鍵頻度
 
 
 
3−9 上段・中段・下段の段別負荷分布の比較
 


上図で明らかなように、子音母音分離型ではホーム段(中段)の負荷が断然多く、上段と下段の負荷が少なく合理的であるのに比較して、QWERTY型では、特に右手において、中段より上段の負荷が大きいことが不合理である。
 また、子音母音分離型では左右の手の負荷がほぼ均衡しているのに対比して、QWERTYでは右手の負担が左手より大きい。
 
 
3−10 人指指・中指・薬指・小指の指別の負荷分布比較
 
 
 
 図で明らかなように、左右の手の指別の負荷分布においても、子音・母音分離型は小指の負荷負担が小さく、薬指がこれに次いで小さく、中指がその次であり、人差指は2行を受け持つので、他の指の約2倍の負荷負担であって、正に理想的と云える負荷分布である。
 これに対比して、QWERTY鍵盤では、左手小指の負荷負担が過大であり、右手小指の負荷負担が極度に小さく、また右手中指の負荷負担が突出するなど、不合理が目立つのである。
 
 
 
3−11 子音母音分離型鍵盤は日本語入力に適合
     QWERTY型鍵盤は日本語入力に不適
 
 3−10に示したように、日本文を入力する際の各指の使用頻度、従って各指の負荷分布は、子音母音分離型鍵盤では、上中下の段別分布でも、各指の分布でも、大変望ましい負荷分布となる。
 これに対比して、従来のQWERTY型鍵盤の場合には、上中下の段別負荷分布でも、各指の負荷分布でも、不合理性が目立つのである。
 これは元来英文の入力用に制定された鍵盤を、間に合わせ的に使用してきたことによる結果である。
 日本語は独特の言葉であるので、その入力には、日本語に最適化された鍵盤を採用すべきであり、安易に英文用鍵盤で間に合わすことはあまり効率的でない。
 尤も、第1章で述べたように、QWERTY型鍵盤は英文入力用としても不合理とされているものである。
 米国の首都ワシントンDCのスミソニアン博物館に、各指の負荷負担分布についての QWERTY鍵盤とDSK鍵盤とを対比した棒グラフが掲示されており、QWERTY鍵盤が如何に不合理であるかを示している。
 このように、米国でさえ不合理とされているQWERTY鍵盤は、日本文の入力用としてはますます問題があると思う。
 
 
 
3−12 覚え易さと合理性の両立したキー配置
 
 上記の子音・母音分離型のキー配置は、50音表順のキー配置であり、覚え易いことを 第1番に考えての配置であるが、同時にこれが日本語を入力する際の指の負荷分布の観点からも適合しており、日本語の入力に対して「覚え易さ」と「合理性」との両立したキー配置であることが証明された。
  
  いずれにせよ、50音表順にキーを配置することは、日本語を入力する鍵盤としては「覚え易い」ことと「負荷配分の合理性」の両観点から、必須のことと考える。

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